AD115年頃のイグナチオスの書物の中で、福音書ということばが単数形で使われていますが、明らかに複数の福音書の内容を知っていたので、このころは単一の文書として扱われていたと思われます。AD170年頃の「ムラトーリの断片では、ルカの福音書が第3の福音書と呼ばれているので、この頃には今と同じ構成になっていたと思われます。
その内容を詳細に分析していくと、どのような資料が背後にあり、どのようにして福音書が成立してきたかが浮かび上がってきます。(以下の共観福音書の重複構造図、およびカラー3福音書鳥瞰図を参照)
マルコ
マルコのみの記事はわずか5%しかありません。ほとんどマタイもしくはルカに並行記事があります。マルコが最も古く、マタイ、ルカがマルコをベースにしたというのが定説です。
マタイ
マルコのほとんどの記事を含み、それに独自資料とQ資料を合わせて、テーマ毎に編集されています。イエスの教えに重点を置き、奇跡物語は短縮されていることがあります。用語も変えられています。例えばマルコでは「神の国」が、マタイでは「天の国」となっています。
ルカ
他に比べて独自資料が多いのが特色です。Q資料、マルコとの並行記事については、マタイよりも原本に忠実なようです。ギリシャ語としては洗練されています。
共観福音書の重複構造図
【例】
マルコ5:41 その子どもの手を取って、「タリタ、クミ。」と言われた。(訳して言えば、「少女よ。あなたに言う。起きなさい。」という意味である。)
マタイ9:25 イエスは・・・少女の手を取られた。すると少女は起き上がった。
ルカ8:54 イエスは、娘の手を取って、叫んで言われた。「子どもよ。起きなさい。」
マルコは「タリタ、クミ」というイエスが話した生の言葉(アラム語)を残している。マタイはこの記事自体を簡略化しているので、イエスの言葉を省いている。ルカは、マルコに沿っているが、アラム語を省き、その訳もマルコのようにぎこちない翻訳ではなく、自然な訳にしている。
2資料説(マルコ優位説)
このように「マルコによる福音書」と、Q資料の2つを底本として福音書が編集されたとする説。現在もっともポピュラーな学説。マタイ独自資料(M資料と呼ばれる。)とルカ独自資料(L資料と呼ばれる。)を合わせて「4資料説」と呼ばれることもある。
マルコの原典(原マルコと呼ばれる。)とQはアラム語で書かれたのではないかと思われる。
初期キリスト教文書地図 バートン・マック著 「失われた福音書」
マックが作った表であるがQがどのように広がって行ったかを時間軸と地域軸の表で示している。
各福音書の関係(インターネットより)
オリジナルは上記のマック氏によるものと思われますが。よく見えないのでネットからの図を借りて説明する。
ガリラや周辺でイエスの記憶がまだ生きているうちに伝承が纏められQが成立。その内容がやや変化しつつもQ3になり、それをルカとマタイの福音書のベースになった。一部は異端となるトマスの格言集になった。