「新アンチゴーネ」 中田勝康
不気味なものは数々あれど、
人間ほどのものはない。
音より早い大きな鳥となり、神が住み給う月に立ち、
次には、光に乗ってマルスの国への侵入を企てる。
七つの海に無限にあった魚をば、大きな鉄の胃袋に根こそぎ獲り尽くし、
息をもつかずに潜ったままで世界の海を廻って見せる。
神が与えた大地には、薬を撒いて、キメラの種をまく、
幾百万種の生き物は人間の顔色を見ながら生きて行く、
あの百獣の王でさえ。
神の創った大地より、燃える水、燃える石を掘り尽くし、
ついには「パンドラの箱」を開け、全人類を幾千回も殺しめる、
そのウランでさえも、あと数百年、それが果てれば、小さな太陽を作りなん。
止まることを知らぬ欲望と、記号と装置で智恵には智恵を積み重ね、
幾百億光年の宇宙の果てまで思いを巡らして、
神の生まれし秘密をも暴き出す。
たった一つの圧力の「死」でさえも、
ミクロの宇宙に進入し、神の創りし秘密の言葉を解き明かし、
その記号の異変を見逃さず、取り替え引き換え修理して、
総ての人が永遠の命をながらえて、人工神人現れる。
宗教の言葉を作りだし、「総ての人を愛せ」と教え、
貧しい方が幸せだ、と思う心で人皆これで神になる。
しかし、神にもなった人間なのに、神のために、喜び勇んで共食いす、
野獣と言われるトラ、ライオン、ヒョウさえも神の仕掛けに従いて、
決して共食いせぬものを、人工神人のみがする、
いや、共食いこそが神人の増加を抑制する装置かも。
総ての人が総ての人と話をし、総ての人が総てのことを知る、
誰でも、いつでも、どこでも、なんでも出来る。
総ては自由で平等だ、だから自殺も、殺人も、勿論セックス、恋愛も、
これぞ人工神人の幸せだ。
さあ、総てをかなえたキメラ、お前は一体どこへ行く!