中世の産業革命
近代と語る場合に多くの場合14.15世紀のルネッサンスから語られるが、ジャン・ギャンベルが12世紀のルネッサンスに光を当てた。日本でも中世については判で押したようにここから引用していると、思われる。ここでは飯田氏の要約がネットに出ていたので引用させていただく。但し本のほうは図書館でもなかなか無くやっと入手した。中世を研究されるには是非一読されたい。私の意見としては農業革命が発端でヨーロッパが力をつけたわけであるが。その源となった製鉄工業の発展についての原因については明確でない、と思う。このあたりを今後調査したい。2章、3章は太字にした。
中世の産業革命
Jean Gimpel, La revolution industrielle du Moyen Age, 1975からの訳出
英語で書かれたものをフランス語に訳して出版
ジャン・ギャンペル 1918年パリに生まれる。父は画商ルネ・ギャンペル。
戦後より中世技術の研究を始める。1958年「カテドラルを建てた人びと」(飯田
喜四郎訳、鹿島出版会、昭和44年)。1978年現在ロンドン在住。
趣旨 技術の歴史への興味の欠損を少しでも埋め合わせる
第1章 ヨーロッパのエネルギー資源
最初の産業革命は中世に端を発している。<手による労働>にかわって<機械によ
る労働>が本格的に登場し,あらゆる分野で機械の仕様が発達したのは,ヨーロッパ
中世社会においてであった
*水力エネルギー
・中世の「工場」・社交場としての水車
13世紀のクレルヴォーのシトー会修道院での記録 工業用・家庭用目的
・水車の歴史 ギリシャ0.5馬力からローマ3馬力へ技術改革
製粉業の各地への分散と水車の数の飛躍的な増大
・重要な収入源としての水車
11世紀末英国「ドゥームズデイ・ブック」 5624台の水車 平均50世帯/1台
水車の設置場所の法的な保護
・カム軸による機械化
・水車の独占に対する闘争 -ストライキ
英国に縮絨用の水車が導入され13世紀に産業革命が到来
・ダム -資本主義的競争
*潮力エネルギー *風力エネルギー
第2章 鉱物資源の開発
*石材産業 中世の石材 -19世紀の炭田・20世紀の油田に比肩する重要性
特にフランスの地下 「宙吊りの町」パリ カンの石材
採石工の劣悪な労働条件
建設費節約 -採石場の場所・機械の工夫・水路の発見など
建造費全体の10%以上が、採石場と建設現場での鍛冶場の費用(オタン大聖堂)
*鉄工業 鉄の重要性が評価される
・戦争産業 村落にまで鉄工業が広がる -蹄鉄の大量生産・戦闘用甲冑 「軍縮会議」
・農業 刃の部分だけに錬鉄の鉄片
・建築 補強金物・鉄製の器具 ・釘・鉄工具強化のための鋼
・冶金技術 18世紀の産業革命を可能にした
水力エネルギーの応用「ドロップ・ハンマー」
鋳鉄の製造 -水力を用いたふいごによる炉の温度上昇
専門職人・シトー会修道士が技術を広めた / シトー会の鉄鋼コンビナート
ドイツ人の技術 8c銀貨製造 10c以降 銀山開発が技術の基盤となる
11c 鉱山開発流行 フライベルク「シルバー・ラッシュ」 移民による技術移動
鉱山の所有権 -君主特権税
14cより資源の枯渇
第3章 農業革命
*気候 顕著な変化 (「樹木気候学」「氷河学」「生物気候学法」で研究)
フェルナウ氷河の盛衰 750年ごろから1215年ごろまで後退 乾いた暑い気候
→森の後退・農業発展と人工増加に影響
*農業技術の変化 -馬による牽引作業 (裕福な農家のみ)
固定した胸当て(はも) 蹄鉄の装着 馬を順番につなぐこと
*農学の誕生 13世紀イギリス ウォルター・オブ・ヘンリー 『農学論』
ロバート・グロステストの論文 匿名論文『農業必携』『家令必携』
1258年の決議:詐欺・管理不行届きの領地管理人は禁固の刑 →系統的な農地経営
三圃制度 *土板付きの重プラウ(装輪*) 肥料 →羊の飼育
消費物質/羊毛・肉・ワイン シトー会のモデル農場
*食糧供給体制 三圃制度の実施によるえんどう豆植えつけなど 健全な食生活
*人口の増大 8cから11cの奴隷解放 ペストの流行の終息 戦争による死者の減少
第4章 環境と汚染
人工の爆発的増加は中世ヨーロッパの環境に対して破壊と荒廃をもたらした
*山林の伐採 主要燃料や製造・建設用原料として伐採、開墾事業
-木材の価格騰貴
*石炭 大気汚染・騒音
*水質汚濁 屠殺場・鞣革工場による 飲料水は地下水に頼る
*公衆衛生 浴場や公衆便所 管理の悪さと風紀の乱れに危惧した当局の取り締まり
第5章 労働者の状態
*鉱夫 権利 ほとんど至る所を踏査し試掘することができた
特典 税金・通行税・兵役などの免除 採掘権を伴う土地の譲渡
*錫鉱山の特別待遇 12-13c英国 産出高の増加・財源としての錫貨税の収入
*繊維労働者 資本主義体制に隷属 「物品支給制」
13cフランドル地方 -西ヨーロッパの織物工業が集中
羊毛はイングランドに依存 価格騰貴・輸出禁止措置などで打撃
労働者の反乱 フィレンツェの銀行家による羊毛市場への介入 13c末 衰退
14cフィレンツェ 生産増大 -労働力搾取の強化・労働方式の機械化
*建築労働者 自由な労働市場・多様な賃金体系
第6章 建築家・技術者ヴィラール・ド・オヌクール
*建築技師 建築家兼技術者 特権と名声
*ヴィラール・ド・オヌクール 『画帖(カルネ)』 技術的根拠/「好み」
二重に並べた飛梁・裏通路 -構造上の技術的興味・安全性の問題・万力の使用
【資料】
・永久機関 エネルギー問題の解決-実用的目的のため
・発明とアイディア玩具 水力鋸・投石器など
*ウィトルウィウスの影響 中世の人々はローマ文化を高く評価
建築家の百科全書的教養・幾何学の使用
自由技芸と機械技芸の相克 -レオナルド・ダ・ヴィンチ,ロジャー・ベーコン
第7章 静かな革命 -機械時計
中世社会は進歩という概念を固く信じており,機械化と技術の追及に熱中した
時計←近代技術の最初の機械:エネルギー量の正確な測定と標準化・自動動作
*蘇頌の時計 11c中国の天文時計 国家機密 13cに失われる
*西洋の天文時計
水力時計の製作の限界
・ウォリングフォードの時計
「イギリス三角法の父」 天文器械「アルビヨン」「レクタングルス」の発明
・ジョヴァンニ・ディ・ドンディの時計
重りによって作動する棒テンプ冠型脱進機を用いる
【資料】
*新しい時間概念
ヨーロッパの大都市で天文時計が流行
昼夜平分時が知的・商工業的分野において重大な影響
新思想に容易に順応 「時は金なり」
第8章 知的創意
12世紀最初の四半世紀から13世紀最後の四半世紀の150年間に,理性と信仰を結
婚させようとする絶え間ない努力があった
*アベラール(1079-1142) ヨーロッパ最初の知識人
宗教的領域に論理的推論を適用 諸観念の解体 社会的・知的伝統の批判
*12cルネサンス 哲学と科学のルネサンス
古代の著作の流入→12・13cの近代化学発展の口火をきる 【資料】
*学問の中心 自由七科(文法・修辞・論理/算術・幾何・音楽・天文)
・シャルトル プラトン『ティマイオス』の影響
四科の知的形成を重視 (特に算術・幾何)
・パリ タンピエの断罪
学芸学部 -三科の研究を専攻 アリストテレス主義的
・オクスフォード シャルトル学派の伝統
四科と新プラトン主義を専攻 実験科学の前進
*ロバート・グロステスト
自然科学の基礎を数学と実験の上においた 光学研究
*ロジャー・ベーコン(1214-1292)
『オプス・マユス(大著作)』
屈折像・視角器官の研究 ユリウス暦の誤謬の指摘
数学の先験的重要性・実践的価値を確信
*ピエル・ド・マリクール
実験的研究を科学的に行った最初の人
『磁石についての手紙』 手の熟練の重要性を強調 羅針盤の改良
*羅針盤 13Cヴィヴァルディ兄弟アフリカ沿岸ナン岬に到着 大航海時代へ
しかし,1277年にタンピエによる断罪があり,1278年にはロジャー・ベイコンの著
作が禁止され,科学や理性と信仰を和解させる教会の努力は終焉をみて,14および15
世紀への神秘主義への道が開かれることになった
第9章 不幸の重荷(1300-1450)
13世紀の中頃に「中世の発明」は上昇する発展の頂点に達したが,この時点で景気が
代わり,技術発展が妨げられるようになった
それに並行して西欧社会は多くの人を殺し貧しくなって活力を失った
*キリスト教会の危機 「教会大分裂(シスマ)」 感情的神秘主義への傾向
*妖術 オカルティズムの根強い流行とそれに対する凶暴な弾圧
*十字軍の衰退 ヨーロッパでの生活水準の向上→再び守勢に
*飢饉 1315年から1317年の激しい気候不順 平均気温の低下と雨量の増加
大量の死者 中世末期の経済不振の出発点
*ペストの大流行 食糧不足による身体的抵抗力の低下をおそう 人口減少
・生き残った社会集団の生活水準の向上
*農民暴動 ・ジョン・ポール ・ワット・タイラー
*平価切り下げと銀行破産
*百年戦争 ヨーロッパの荒廃
軍事技術の発展 大砲の改良
1453年終了
経済生活上のいくつかの基礎的な産業部門,例えば農業やエネルギー資源や繊維工
業が13世紀の水準を超えるためには18世紀産業革命を待たなければならなかったし,
建築技術には19世紀の金属トラスに至るまで決定的な進歩がみられなかった
にもかかわらず,中世の二つの遺産-航海術に関する諸発見と印刷術-からルネサン
スが花開いたのであった
R・A・ブカナンによる「発明が商業的に成功するようになるための三条件」
1)社会の中に技術革新を真剣にかつ好意をもって考えるグループが存在すること
2)技術革新があらゆる社会的必要に答えること
3)社会的資源