サン・イシドロ聖堂は幾多の増改築が行われロマネスク時代の建物は少ないが、幸い広場に面したティンパヌムにはロマネスク時代の彫刻が残っている。上部の小円の中に黙示録子羊が、十字架を背にして立っている。その小円を二人の天子が両側から支えている。左隅の馬上の人物は身体を後ろ向きにして、矢を射ろうとしている。即ち反イスラムのテーマだ。中央は旧約聖書の「イサクの犠牲」だ。神はアブラハムの信仰心を確かめるべく、神のために息子を殺すことが出来るかを、試している。その左に神の大きな手が出てきて、犠牲の子羊を代わりに差し出している。もう一つのティンパヌムにはキリストの「十字架降下」、ここにはマリアが接吻し、ヨセフがキリストを支えニコデモが釘を抜いている。
王達の霊廟
馬杉先生の本によると概略は次のようになる。
玄関口は、二つの梁間を持ち、三つの身廊に分かれている。それゆえ、その天井は、六個の交叉穹窿で覆われている。・・・ロマネスク時代のシスティーナ礼拝堂とは、西部フランスのサン・サヴァン聖堂の天井のみでなくサン・イシドロ聖堂にも与えられた名称である。システィーナ礼拝堂とは、ヴァチカン宮殿にあるミケランジェロによる壮大な『創世記』の天井画を指している。ここにはサン・サヴァン聖堂やシスティーナ礼拝堂のように、『創世記』の物語が描かれているのではなく、『受胎告知』から始まるキリストの幼少時代から、受難にいたるキリストの生涯が主題にされている。しかし、残されている壁画の量のみでなく、質のめんでも、サン・サヴァン聖堂と共に、システィーナ礼拝堂に匹敵するゆえに、この名称が与えられている
最後の晩餐は多視点描法、逆遠近法
馬杉先生によると、この絵は中世界が独自の空間把握法で描かれているとのこと。中央にキリストがいてイエスの右胸になぞの若きヨハネ、彼らの左右には、4人づつの使徒。東屋の左下にユダがいる。一方右上のダディウス、左上のマルシアリスはそれぞれ右に90度、左に90度視点を変えた角度から描かれている。このような多視点描法はピカソなどのキュービズムの手法だ。次に逆遠近法についてであるが、キリストの両足の乗る台座は手前が小さく、奥に行くほど大きくなっている。これは何を意味するのであろうか。これは中世絵画にしばしば現われる空間表現で、いわゆる舞台から我々の方に向かう視点になっている。つまりキリストからの視点だ。
馬杉宗夫 「スペインの光と影」 193P 日本経済新聞
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▲サン・イシドロ聖堂
▲イサクの犠牲
▲十字架降下
回廊 |