A 工夫した独創的造形

A・1 連続的に変化する立体造形
 一般的には見事な立体造形があっても、ビューポイントは一か所である。ところが重森は視点が動くに従って連続的に立体造形が変化する地割を創出した。
 その手法は近景、中景、遠景に竪石による造形を作るのである。このような地割を行えば視点が移動すると重なり合う石組が変化することになり、自ずから異なる立体造形が得られるのである。ここでは西禅院、岸和田城と松尾大社の例を示す。
 詳しくは拙書『重森三玲 庭園の全貌』232頁を参照されたい。
 
西禅院(S28):俯瞰写真で多島式の地割が解る 岸和田城(S28):大将陣を中心とした八陣の地割


西禅院:茶室から見た立体造形は、視点が少し移動しただけで造形は変化する


岸和田城:近景の龍陣越しに中景の大将陣、遠景の鳥陣、虎陣、天神を見る


小河家:重森は著書の中で「美は力なり」と書いてある。


松尾大社:やや俯瞰の写真なので、立石が層状になっているため、視点が移ると造形が異なってくる。

A・2 錯覚の応用
 小さな庭を大きく見せるため、主要な石組みの前に小石を置くと奥行きが出る。更に背後にある石組と前成る石組みを有機的に関連させるために、背後の石組みに手前の石組のような尖った石を組んだのであっ他が、その石をカットすると前後の石組みの関連性が失われた。

前垣家:画面中央小石が3石ある


上記写真から画面中央の小石3石カットした→奥行きがなくなり、更に左にへの動きの止まってしまう


上記写真から、更に背後の尖った石を3石カットすると、背後の石組みと前の石組みが脈絡がなくなってしまう。
A・3ユニークな造形
 
 
・廃物利用の庭(東福寺北庭・東福寺東庭・石清水八幡宮・桑田家)

東福寺北庭


東福寺東庭
石清水八幡宮(S41)昭和36年の室戸台風で破壊した大鳥居の残骸を利用した。現在の大鳥居を潜った右側には円柱を主体とした庭があり、左側には角柱を使った庭がある。角柱の破断面は重森好みの造形であり、ほぞ穴さえも作品の造形になったのである。

 
桑田家(S34):重森が当家を訪れた際に、蔵元時代に大戸のレールが敷かれていた6mもの石が目に留まった。重森は閃き、この石を使うことにした。平滑な面を下にして両端をのみで落とし荒々しい表所にした。しかし、書院の前に大きな石が横たわっていたのでは、造形にならないので、重森は白セメントを斜めに交差させ、その強さを和らげて、芸術作品に昇華させた。

 ・壁面に水墨画を描く
旧片山家庭園(現在は渡辺家)長さが約80mある壁の高さが3mもある。そのため、庭園を鑑賞すると圧迫感を感じてしまう。そこで重森は壁に水墨画を描き、石組の造形と連携させた。そのため奥行きのある庭園になったのだ。
 
片山家(現渡辺家):壁に描かれた水墨画       苔地の洲浜の俯瞰写真

岸和田の波涛と巌が描かれている(現在は水墨画は擦れているので、以前に撮影された写真を現在の所有者である渡辺家より借用した)

本休寺:庫裡と土塀の間隔は約3mしかない為、波涛の模様が描かれた・
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